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西條八十

 アンティーク着物のお店で時々みかける、当時の歌謡曲の歌詞、とその情景をモチーフとした帯やハギレ。「時勢」「流行風俗」をファッションへと転換するのは、現在も同様だが、当時はこのように、流行歌の歌詞をデザインと採るのがお洒落だったのだろうか。

 こちらのお店のブログに紹介されている昼夜帯の写真に「東京行進曲」の歌詞がまばらに見える。いくつかの歌の歌詞があり、「東京行進曲」はその1つ。その全歌詞は以下になる。

昔恋しい 銀座の柳
仇な年増をを 誰が知ろ
ジャズで踊って リキュルで更けて
明けりゃダンサーの 涙雨

恋の丸ビル あの窓あたり  
泣いて文(ふみ)書く 人もある
ラッシュアワーに 拾った薔薇を
せめてあの娘の 思い出に

シネマ見ましょか お茶のみましょか
いっそ小田急で 逃げましょか
かわる新宿 あの武蔵野の
月もテパートの 屋根に出る

(音はこちらで聞けます

 この作詞は、昭和初期そして戦後と活躍した「西條八十」。
 西條八十は、「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」の書き出しで記憶する人も多いであろう「ぼくの帽子」や、「歌を忘れた カナリヤは」で始まる、童謡の「カナリヤ」、抒情詩や象徴詞の他、前述のよう服飾生地にもなってしまうような流行歌、そして「同期の桜」「若鷲の歌」といった軍歌と、多様な詩作活動をした人物である。

 「ぼくの帽子」

母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ、

僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、

紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?

そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、

あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。  


 「怪我」

ふいても ふいても 血が滲む
泣いても 泣いても まだ痛む
ひとりで怪我した くすり指
ほかの指まで 蒼白めて
心配そうに のぞいてる     

 神楽坂花柳界出の歌手として今も語り継がれる、神楽坂はん子が歌った「ゲイシャ・ワルツ」は、彼の戦後の作詞になる。

あなたのリードで 島田もゆれる 
チーク・ダンスの なやましさ
みだれる裾も はずかしうれし
芸者ワルツは 思いでワルツ

空には三日月 お座敷帰り
恋に重たい 舞い扇
逢わなきゃよかった 今夜のあなた
これが苦労の はじめでしょうか

あなたのお顔を 見たうれしさに
呑んだら酔ったわ 踊ったわ
今夜はせめて 介抱してね
どうせ一緒にゃ くらせぬ身体

気強くあきらめ 帰した夜は
更けて涙の 通り雨
遠く泣いてる 新内流し
恋の辛さが 身にしみるのよ


 西條八十は、明治25年(1892年)に、神楽坂の中心よりも西、市ヶ谷エリアにほど近い、払方町で、資産家のぼんとして生まれた。ただ、ぼんの生活も長くは続かず、20歳にして家族を養わなければいけないという境遇となる。
 早稲田大学の仏文科の助教授となるのは大正15年(1926年)。それまでは、童謡運動に、天婦羅屋、早稲田の講師、株式投資家、いろいろなことをしている。
 「作詞」という行為で、彼が作り上げたものは多種多様、多彩すぎる。同時並行によくできたものだ、とも思う時期もある。それが複雑な人格と才能、感覚ゆえであり、バランスであるというのは簡単なのだが、いずれの作品にも通じていることは、言語を操ることに対しての美意識だ。

 払方は、幕府の官吏の役職のひとつで、将軍の下賜品を管理する。その職にある人の居住地であったため、「払方町」の名となった。

Liz wrote

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